Roger Bart in The Producers (1)

※お読みいただく前に、こちらをご覧くださいませ。


【概要】

2007年1月11日から13日までの3日間で"The Producers"を4回観劇。たぶん、これが、わたしにとっては最初で最後の"The Producers"になるでしょう。

MaxはTony Danza、Leoはもちろん、Roger Bart。

4回のうち1回はRogerが休みでアンダースタディだったこと、4回とも座席の位置が違ったこともあって、トータルでバリエーションが楽しめました。

以下、いい加減な体験記です。感想ですらありません。全部、「わたしが思うに」「わたしにはこう見えた」です。IMOです。しかも「ロジャー・バート・ラブ」です。そんな方はおられないとは思いますが、これをジェネラルなレビューなどと思わないでください。お願いします。

また、当然ですが「完全なるネタバレ」です。



【1回目】1月11日(木)夜


飛行機が定時に到着するかどうかわからなかったので事前にチケットを取っていなかったが、現地合流の友人が先に到着し、tktsで半額チケットをゲットしてくれた。G列21番。左端から2席目。下手奥は見切れるが、半ばまでは十分見える。ちなみに友人はこの日、スパマロットを観劇。

観客の入りは悪くない。アテンドの数字はかなり落ちてきているそうだが、見た目、一階は満席、インターミッションに覗きに言った感触では二階もH列あたりまでは入っていたようだ。バルコニーは見ていないのでわからない。客席の年齢層はけっこう高い。

とにかく、「有名なトニー・ダンザ」を見るのが目的のお客さんが圧倒的に多い印象。開演前に聞こえてくるおしゃべりは、トニー・ダンザの名前が多かった。プレイビルを見て「デスパレート」とか「ファーマシスト」と言っている人もいた。トニー目当てで来て、あー、あのドラマのあの人も出てるのね、という感じかな。

いよいよ開演。オーバーチュアはやはりワクワクする。が、King of Broadwayが始まった瞬間、「こ、これは大丈夫か……?」。一瞬血の気が引いた。トニー・ダンザ、声が全然出ていない。日本の芝居でも時々見かけるが、芝居慣れしていないタレントさんが舞台に立ったとき、「声をつぶした」状態だ。表現も乏しく、魅力を一切感じない。向こうの掲示板で「喋るように歌ってる」と読んだが、まさにその通り。なんとかこなしてはいるけれど……。

写真で見たときはけっこういい男だと思ったのに、舞台上のトニーは、顔はやつれ、やせ細り、背もあまり高くない、貧相な老人にしか見えない。まだ55歳なのに。うーむ。マックスはたしかに「dirty old man」かもしれないが、ここまでリアルに作っていいものか……。しかし、お客さんは、わたしが青くなったKing of Broadwayでかなり喜んでいる。生トニーを見られればなんでもいいのか。もしかして、ここはブロードウェイではなく、新宿コマか?

いよいよRoger Bartのレオ登場。彼が出てきて、おどおどと事務所の中を見回した瞬間、浮ついていた空気がすっ、と変わった。生トニーに浮かれていたお客さんも「あ、ここからがお芝居なんだ」と思ったようだ。

"Scared! Can't talk!"
"Blanket....MY BLUE BLANKET!!!"

など、どの台詞も爆笑なのだが、やや急ぎ気味。青い毛布は3秒ぐらいでレオの手に戻った。また、ヒステリカルのシーンで、マックスがレオの顔にぶっかけるはずの水は、ロジャーの頭上に飛んでいった。一瞬、斜め後ろ頭上を見上げたロジャー、次の瞬間、マックスを見つめ、まったく濡れてないのに、

"I'm wet!!"

と速攻で芝居に戻った。濡れてない、ということをギャグにする余裕はない、と判断したのだろう。

さて、今回のコンビで事前に話題になった「やせたマックスにどうやってFat!と言うのか」。ここで伏線を張っていました。

「1942年にあなたのショーを見たとき……」の話の中でレオは無邪気に「あの頃、あなたはデブ(fat)でしたよね(笑)」と言って、マックスをむっとさせる。「デブじゃない。がっちり(husky)してたんだ」。すっかり自分の世界に入ってしまってちっともひとの話を聞いてないレオは「デブっていうか、こう、ぽてっとしてた(chubby)っていうか……」とニコニコしながら続けるので、マックスはかなりムカついた様子。これが前振りになりました。

その後も、笑いは取っているが、全体的に急ぎ気味。そのテンポを作っているのは主にロジャー。

たとえば、ゲイの館で、でっかい唇クッションを見てレオが当惑し、マックスがそれを見て困るシーン。既に舞台を見た友人から聞いた話や、観客が書いている掲示板で読んだいろいろなバリエーションから、どんなふうにやってくれるか楽しみにしていたのだが、なんと完全にスルー(呆然)。二人でソファに座ると、いきなりレオが、

"Is this Roger DeBris, is he good? I mean, is he bad?"

とマックスに台詞を振ったのだ! えええーっ! ここのギャグ、全カットですか!!

その後も、I Wanna Be A Producerなど、ロジャー・バート単独のパートはけっこうゆとりを持って歌も踊りもギャグもやってくれて感激したのだが、トニーが絡むところは「堅実」としか言いようのない作り。いわゆる「鉄板」で笑いのとれることしかしない。二人の間で何かを作る、これぞ生の舞台の醍醐味、というシーンはほとんどなかった。それでも十分おかしくて爆笑なのだけど、ロジャー・バート、十分背負いきれるのはわかるけど、これは相当孤独できつい仕事だなあ、と妙に冷静に見ている自分が少し悲しかった。

ちなみに、Bill Nolteのフランツは最高! 出てきた瞬間からおかしかった。かわいかった。歌がうまかった。演技も、硬質な部分をうまく生かし、本当にナチスドイツの時代に生きていたようなフランツを作りあげていた。しかし、メル・ブルックスって本当に天才だなあ。ゴリゴリのネオナチなのに、ヒトラーの芝居をブロードウェイで上演してもらうのが夢っ、て、もう、それだけでとてつもなくおかしい。

Brad Musgroveのカルメンは、実にカワイイ。ダンサー出身だけあって、動きと身体の美しさはピカイチ。ただ……「変」じゃないんだなあ。彼が出てきても「何この人」って感じがしない。そこまで求めるのは酷でしょうか。もしかしたら「変」はカルメン一人で醸し出す雰囲気じゃないのかも知れない。ロジャー・デ・ブリーとコンビで作るものなのかも。

その、ロジャー・デ・ブリーのLee Roy Reams。うーむ。判断が難しい。一回目の観劇では、うーむ、ゲイリーが懐かしい、としか言いようがない。とてもうまい役者さんだと思うのだが……。ロジャーとカルメンの間に「愛」を感じなかった。一切。うーん。うまいんだけどなー。これは悲しい。

Angie Schworerのウーラ。かわいい! あり、ですね、このウーラ。ただ、人間的な部分が全然ないアンドロイド・ウーラもいいんだけど、キャディ・ハフマンのウーラは、頭は軽いけど、マシューの時も、スティーブのときも、ロジャーの時も、本気でレオに惚れてる感じが出ていた、と掲示板で読んでいるので、それが見たかったなあ、と少し思いました。頭の軽いダイナマイトバディが、しおらしくレオに寄っていくのが見たかった。でも、アンジーも十分かわいくて楽しいウーラでした。

お客さんは終始、かなり喜んでいた。やっぱり新宿(以下略

Little Old Lady Landは映画より楽しかった。というのは、映画ならなんでもできて当然、と思ってしまうから。これはわたしの感覚なのでかなり変わっているかもしれない。舞台のあの狭い空間をどう活かすか、という「知恵」に感動する。男性ダンサーのおばあちゃん姿も楽しい。

一幕終了。わたし自身相当笑ったし、ロジャー・バートは予想通り、いや予想を遙かに上回って「わたしの見たかったプロデューサーズのレオ」を演じてくれていたし、この大ヒット舞台のセット、照明、その他もろもろ、何より驚くべき転換の速さを目の当たりにすることができたのも嬉しかったが、トニーに当惑したまま休憩を過ごした。

二幕目。That Faceのダンスが面白くて美しくて感動。お客さんも大喜び。座席的にダンスが見えないところがあってちょっと残念だったけど、明日以降の席は絶対見える場所なので、まあいいや、と気楽に構える。

話はどんどん進み、Fat!のシーンへ。序盤の「昔あなたは太っていた」を伏線として、

"Fat!! You used be fat! Fat! Fatty! Give me that husky, chubby, fat book!!"

なるほど、こう来たか……苦しい(笑)。

レオはマックスを裏切ってリオへ。いよいよ、あの、ネイサン・レインに圧倒されたBetrayedだ。ひやひや……どうなることやら……。

……なんと、これがよかったんですよ、トニー・ダンザのBetrayed!

いい、と言うとちょっと違うな。全然うまくもないし、いっぱいいっぱいだし。

そうだ、リアルなんです。

リアルに「レオがいないと、ひとりぼっちじゃ何もできなくて、過去には栄光があったのに、今やその過去さえレオに持って行かれて何もない、ただのdirty old man」。これはある意味すごい。歌は声が出ていないけど、この歌はテンポさえ保てばなんとかなる歌なので、妙に似合っちゃっておかしかった。はてさて、そういう「リアル」で笑うのがいいことかどうかはわかりませんが。

余談ですが、トニー・ダンザ、超有名スターですが、最近はいまひとつさえない日々を送っていたようです。長年連れ添った妻には離婚され、トークショーは打ち切り、これといった代表作も90年代以後とくにない。

それを思うと、

"My past!...."

のくだりは涙無しには聞けません。泣いてないけど。いや、それは冗談として、とにかくBetrayedは、4回見て4回ともわたしは好きでした。特に「……赤の他人の過去が走馬燈のように……」の台詞は何度聞いても大爆笑。

裁判のトニーもよかった。要するに「ダメな人」「弱い人」「レオに頼り切りの人」になると俄然いいのです……リアルに。それだけ、ロジャー・バートが、レオがタフで頼りになる人に見えちゃうわけで、これはいかんでしょう。実際タフで頼りになるんだけど。ロジャー、どう見てもトニーより圧倒的にうまいし、いい男だし(マックスのメークがあまりに老けてるのもあって)、貫禄もあるし……困りましたねー。

だから、ロジャーのレオをトニーのマックスより「ダメな人」「下の人」に見せるためには「幼児性」で勝負するしかなくて、レオの幼児性の演出部分はむちゃくちゃおかしかったんだけど。

最終的にはいい感じにラストになだれ込み、カーテンコールの主役登場ではスタンディングオベーションに。んー。日本のアイドル芝居じゃあるまいし、こっちではそんなに簡単にスタンディングオベーションはない、と聞いていたんだけど、まあ、いいか。トニー・ダンザという有名人のお陰で、楽しい客席にいられたのだから、と感謝してわたしも立って拍手を送り、一日目の観劇を終えました。