Roger Bart in The Producers (4)

【3回目】1月13日(土)昼-2

二幕目。


That Face。

木曜も素晴らしかったけど、C列真ん中でこれを見られるのは天国。いやはや、美しい。美しくておかしい。おかしいんだけど、美しい。ウーラを机からおろすときの抱っこは、ゆっくり回転しながらダンサーのリフトでおろす。ロマンティック。上手前でウーラを一回転させる直前の、手を受ける姿勢の美しさ。軸のぶれなさがここでも発揮されている。でも、振付けのベースは相変わらず低い重心のコミカル。ウーラ主導で踊らされ、嬉しくて嬉しくてコミカルに走り回るレオ。かと思うと、さりげなく後ろからひょい、とウーラを持ちあげる軽やかさ。頭からソファにつっこむスピードの速さ、つっこんでパーンと両足が上がり、ほとんど真っ逆さまになる身体のキレ。すげー。

ソファの後ろのギャグは、ほとんど映画と同じ。映画より若干スピード感があるかな? 壁に映し出されるロジャーの漫画のワンコみたいな笑顔は爆笑もの。うーむ、相棒が言っていたとおり、映画のマシューの甘い笑顔ならスウェーデン女のハートもとろけるかもしれないけど、この漫画みたいな笑顔にはとろけないだろう(笑)。最後に、レオが先にソファから降りて、ウーラを招く手の返し。うーん、ダンサーの手だ。そこから、そっとウーラの手をなぞって美しく歌をしめくくり、左手、右手、左手、と腕を組んで受け、大きく移動して机の前でウーラとキス、そしてブルーブランケットをゴミ箱に捨てるまでの流れの美しいこと。ようやくレオが生まれて初めて「男」としてほんの少し自信を持ち出したなあ、って感じが出ている。ここでちょっとだけ大人の男の色気がこぼれる。きゃー(笑)。もちろんここも、ショーストッパー。

そしてオーディション。ここはほぼ映画と同じですね。オーディションを受けるアンサンブルはもちろん爆笑なのだが、ある意味、ビルさんのフランツの独壇場と言っても過言ではない。オーディションの冒頭からフランツに注目していたのですが、歌を聴きながらリズムを取ったり、変なやつが出てくると難しい顔になったり、これまた細かい芝居をしてらっしゃる(笑)。ロジャーとカルメンは……ジャック・ラピデュ、でさえ期待したほど笑えないのはさみしいなあ。あと「ドイツのバンドを知ってるかい?」「いや!」って言うときの、No、ゲイリーの、興味津々の言い方がやっぱり大好き。出版されてる台本にも「そういうふうに」演技するように書いてあるしなあ。リームスさん、ここも全般に、軽く流しすぎ。もったいないなあ。

二度目のオープニングナイト。またもやエリック・ガンハスがクロージング・ナイトに切り替わる看板をとりつけていた(笑)。ここも映画のまま。ただ、映画ってやっぱり難しいなあ、と思うのは、もう一人の管理人、相棒がずっと「残念だ、残念だ」と言ってたことをしみじみ実感したんですが、マックスがはしごをステージドアに運ぶシーン、映画ではマックス単独のカットになっちゃってるけど、やっぱりこれ、のんきに唄ってる連中と、はしごを運ぶマックスと、両方目に入れておきたいところですね。ロングショットで撮れなかったのかなあ。

ヒトラーの春の日。割愛させていただきます(爆)。

いや、めちゃめちゃ豪華で、アンサンブルもよくて、大好きなエリック・ガンハスの歌声が甘くて、Watch out, Europe、のところで、オカマちゃんぽく手を口元に持って行くのがツボだし、いろいろ楽しいんですが……リームスさんが……。

ヒトラー登場。一瞬で空気を変える。あれが、まったくできてない。てゆうか、する気がないみたい。一瞬じゃなく、じたばたした仕草で笑いを取ろうとしてる。実際、笑いはとれてるけど、あれは違う。ゲイリーの真似をしてほしい、というのではなく、空気を変える芝居をしてほしい。世界を変えてほしい。

マスカラがダーッと流れちゃってるカルメン・ギアは、ものすごくかわいかったです。

ここからが、もしかしたら一番見たかったシーン。映画では撮影すらされなかったシーン。

Where did we go right?

いやーーー、おもしろかった! 暗転の後、レオがスタスタと、歩く以外なんの動きもなく、ただ部屋に入ってきただけで爆笑。だっておかしいんだもん、レオが全身にまとっている、せっぱ詰まった絶望の空気が。

マックスの"A hysteric masterpiece"も、きちっと爆笑を取った。でも、何よりおかしいのが、やっぱりレオ。新聞を読み上げるのだけど、その声がまるでどこか東欧の国営放送のアナウンサーみたいな、って、東欧のアナウンサーは英語じゃないだろうけど、もし東欧の国営放送のアナウンサーならこうしゃべるかな、という感じの、冷静で低くて抑揚の全くない声。「ブロードウェイに一足早いクリスマスがやってきた。靴下の中に入っていたプレゼントは……」。絶品の間でぼそっ、完全に無抑揚なのに、無念やるかたない思いと絶望のにじみ出た「……エイドルフ・ヒトラー」。爆笑するしかない。ロジャー・バートの瞳に映る「絶望」の深さは半端じゃない。ギャグのための絶望なのだが、だからこそ、その落差にやられる。歌に入り、主役はゲイでほとんどいっちゃってるとか、よりによってピュリツアー賞候補とか、とどめの「お客の半分はユダヤ人だったのに」。いちいち全部、確実に爆笑を取ってました。もう、とにかく声もいいし。あ、もちろん、ロジャーの、ね。トニーも決して邪魔にはなってませんでした。

この歌、やっぱり面白いわー。オリジナルキャストアルバムで聴いて、なんて面白いんだろう、と大好きになった歌。なんで入れなかったのかなあ、映画に。時間のムダだからだろうけど、でも面白いのになあ。全部面白いのに。ユダヤがまずい、ってこれだけやっといて今さらそんなことないだろうしなあ。

そして、Fatの場面に。ここは(1)で書いたので割愛。

警察が来てドアの陰に飛び込むレオ。ピアノの横にレオが出ていくための切り出しの小さな扉があるのがわかる。マックスが連行され、入れ違いに入ってくるウーラ。「Ulla! Help me!」の、かすれた声が、情けなくてかわいいのに、ちょっとセクシーなんですけど(笑)。ドアにぶら下がってるレオ。どうしようもなくキュート。アンダーくんの日に気づいたのだけど、警官騒ぎの間に、レオの足の下になる部分に、ごく小さな踏み板が差し込んである。裏から突き出しているのかバネ仕掛けなのか。ドアの下の羽根窓部分にうまく紛れ込ませてる。よくできてるなー。考えてみれば、成人男子一人、どうハンガーに工夫をしても実際にぶら下げられるわけがない。生舞台でこういう仕組みに気づくとホントに感動する。「What a dilemma!」。この台詞って、なんでこんなにおかしいのかなー。映画を見たときも笑ったけど、もちろんここでも大ウケの爆笑。

Betrayedは相変わらずよかった。何度も言いますけど、最高にいい、って意味じゃありません。まったく「よくない」。しかし、なんとも言いがたい、これが演劇ってもんだよな、演者の人生と役の人生がかぶるときって、あるよなあ、という良さ。

わたしがそういうシチュエーションにしびれるのは、つかこうへい作品が好きすぎるからかも。いや、そんなに意図的に高度な芝居してるわけじゃないんですけどね、トニー・ダンザ。でも、この芝居の台本も、お笑いに徹してるように見えて、けっこう人生のトラップをいっぱい仕掛けた深い台本。あっさり軽演劇的に演じることもできるし、追求する気になればいくらでも深く作れる。スーザン・ストローマンはそのあたりのあんばいを、この本からずいぶん学んだのだろうな。いい本は、演出家も役者も育てる。そして、演出家や役者が本をふくらませる。ロジャー・バートも、カルメンとレオを通して、たくさん宝を得て、そして、育ててもらった分、本に対して恩返しもしている。つくづく、素敵な芝居だなあ。

裁判。うーん、ここがちゃんと、ひとつの山場になるんですねー、舞台だと。映画は、いいシーンだなあ、と思いつつ、たるく感じちゃったので、多分にリベンジの感あり。映画では初めて見たときですら、このシーンのカット割りや編集には「えっ!?」と思わされるところ多々だった。あれはそもそもの撮り方がいけないと思う。カット割りはむちゃくちゃで、うるさいほど多すぎるし、編集も全部おかしい……と、そんなことを言っても仕方ない。

陪審員のおばあちゃんたちのコーラス、最高(笑)。トニーのマックスもいい味を出してました。落ちぶれたところがいいって、褒め言葉にならないかなあ。ほんとに褒めてるんだけど。そして、レオ登場。かっこいいっす。いや、声がね、良すぎて。That's not true!の。

Til Himは本当に美しかった。ロジャーの声ならファルセットか、ファルセットじゃなくても歌の声を使ってもいいんじゃないかな、と思っていたけど、最後ぐらいしか使わず、ほとんど地声のまま、かなり高い音も出していた。それでももちろんいい声なんだけど、地声じゃない歌も聞きたかったなあ。

Til Himの最後、レオに甘えて、ことん、と頭をレオの肩に乗せるマックス、そのマックスの頭に、そっと自分の頭を寄せるレオ。いいですねー、このシーンは。映画でもめちゃくちゃかわいかった。このシーンって、二人の笑顔が実にいいんだ。信頼感があふれてる。しかも今回の舞台では、これは相当部分素のトニー・ダンザとロジャー・バートの信頼関係ですね。やったー、今日もお芝居、なんとか無事にここまでたどり着いたよぉー、うん、そうだね、よかったね、うん、ホントにありがとね、っていう「ホッとしました」感に満ちてたりして、って、これ、かなりシャレにならない(爆)。

刑務所では「独房の連中にも聞こえるように!」ではなく、ロジャー・バートのレオが定番で言うと聞いていた台詞が聞けたしウケてたけど、あれはちょっとその、あまり好きじゃないなあ。いかにブラックネタが好きなわたしでも、ちょっとその(笑)。あ、わかりませんか。すみません。「今度は殺人者だけ!」の、殺人者の部分が他の犯罪になってるという……。一応反転で書いておきます。「今度は小児性愛だけ!」です。これ、特に日本語訳にすると、きわどすぎる(汗)。

そして、ラストへ。レオにマックスが、プロデューサーズハットを渡す。ハッとして、本当に嬉しそうなレオ。ロジャーの嬉しそうな顔って、見てるこっちも幸せになるんだよなあ。この、ラストの二人のダンス。単純なダンスなんだけど、ロジャーの身体のキレがやっぱりすごい。なんでもない足さばきとか、回転の速さとか、うっとり見てしまいました。

幕が下りて大拍手。幕が上がって、アンサンブルから順番にキャストが出てきて、トニーとロジャーが肩を組んで出てきたところでスタンディング・オベーション。木曜は疑問に感じたけど、今回はわたしも大喜びで立ちました。いいもの見せてもらったよ! という感謝を込めて。ちなみに、金曜日のアンダーくんの日は、トニーがウケるのはかなりウケていたのに、スタンディングなし。新宿コマのお客さんも、けっこうわかってるんだなー、なんて(笑)。

Thanks for coming to see our show...

の歌の時、本当にわたしの目の前がロジャー・バート。いやはやもう……。カーテン・コールのロジャー・バートは、もうひとかけらも「おどおどレオくん」ではなく、大人の男の色気あふれる、素敵な役者さんの素顔でした。

これにて舞台上のキャストたちとお別れ。夢のような2時間40分でした。

もう、夜の部については書きません。夜の部もとてもとてもよかった。でも昼の方が、ちょっとだけ上回っていたかな、と思うし、席も昼の方がよかったし、夜、新しい発見はなかったし。でも、夜、友人と一緒に見られたのは本当に幸せでした。彼女は、かなり笑っていたし、金曜日に爆睡したゲイの館でも寝ませんでした(笑)。ちなみに、彼女の一番のお気に入りはロジャーではなく、アンダーくんのときにすでにハートを射抜かれたビルさんです。ビルさん押しについてはわたしも大納得。

ここまで読んだ方、もしおられましたら、お疲れさまでした。書いたわたしは全然疲れていません。これで、ロジャーとトニーのプロデューサーズ、忘れないでいられそうです。これを書ききったから、ロジャーを忘れるのが怖くて二度と見られないんじゃないかと思っていた映画のDVDとサントラの封印、いつか解くことができそうです。

ほんとによくできた芝居だな、プロデューサーズ。何かが飛び抜けてすごいのではなく、平易に、トータルでこれだけレベルの高いものを作るって、実は一番難しいクリエイティビティなんだよね。

メル・ブルックス、トマス・ミーハン、スーザン・ストローマン、これまでのプロダクションにかかわったすべてのスタッフとキャストに、ありがとう。特に、オリジナルキャストのネイサン・レインに感謝。あなたがいなければ、このミュージカルの企画は成りたたなかったことでしょう。そしてあなたの犯した大きな罪は、あなたの後を引き継げるリプレイスメントが存在できないほどの役を作ってしまったことです(笑)。

そして、個人的に、誰よりも、ロジャー・バートにありがとう。あなたを見るためにブロードウェイに来てよかった。一生の宝物をもらいました。次は、あなたのために書かれたスコアとあなたのためにつけられた振付けで、素晴らしいアイゴールを見せてください。待ってます。